郊外のしごと

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Interview
vol.17

陰を照らすフードバンクの支え人

陰を照らすフードバンクの支え人

全国フードバンク推進協議会 事務局長

米山 広明

米山広明さん。フードバンクを広めたいという熱い思いにあふれています。

貧困ループに感じた使命

企業や家庭に眠っている食品を寄贈してもらい、児童養護施設や困窮世帯などに無償で提供する動きが各地で広がっています。全国のフードバンク活動のサポートに日々奔走しているのが、今回の主役である米山広明さんです。

団体同士の連携でノウハウ不足をフォロー
全国フードバンク推進協議会(協議会)は、国内フードバンク活動の課題の解決や政策提言を行うことを目的に、2015年に設立。現在24のフードバンク団体が加盟しており、米山広明さんは設立時から事務局長を務めています。

「各地の団体の大半はボランティアスタッフが運営しており、専従スタッフを配置できるところはごく一部に限られています。フードバンクは食品輸送や在庫管理などのコストがかかりこそすれ、収益を得られないところが悩みの種。理解ある企業や個人の寄付が頼り、というのが現実です。
またフードバンクは食品の寄贈元と寄贈先を見つけること、その間の連携を成り立たせることが大事になります。しかしそのノウハウが分からずに、せっかく団体を立ち上げてもうまく運営できないところが少なくありません」

そこで協議会では団体の運営支援をしつつ、政府への政策提言や支援者獲得に向けての広報活動を進めながら、活動の理解浸透を図っています。

農業体験による就労支援のようす。慣れない中でも懸命にからだを動かす。

やりたいことが分からず漠然と過ごす日々

米山さんとフードバンクとの出会いには、母親のけい子さんの存在が関係しています。けい子さんは地元の山梨で、フードバンク団体を立ち上げた人物。団体の理事長を務め、今は協議会の代表でもあります。お母さんの熱心な取り組みに、米山さんも感化されたのかと思いきや、入口はむしろ受け身の姿勢でした。

「大学を出てからというもの、数年間フラフラしていたんです。山小屋で住み込みのアルバイトをしながら母のしごともボランティアで手伝う程度で。そもそも進学も、目的意識なく漠然と決めてしまった。でも、“やりたいこと”など誰かが与えてくれるものではありません。それが分からなくて、モヤモヤした学生生活を送っていました。結局、卒業後も就職せずにいて。しかしある時、母から『新たな事業を立ち上げるから協力して』と頼まれたのです」

新事業とは、ホームレスや生活保護を受けている人を対象にした就労支援でした。農業体験を通じてコミュニケーション力を身につけ、ハローワークへの同行などで就職をサポートし社会復帰を図る取り組みです。米山さんは参加者と一緒に、農作業をすることになりました。

当時を振り返りつつ、貧困の深刻な問題について語る米山さん。

「貧困の連鎖」という日本社会の陰

ホームレスの人たちと毎日過ごす中で、米山さんはある誤解をしていたことに気づきます。

「打ち解けてくると、彼らは過去の話をしてくれました。すべての人に共通していたのは、虐待を受けたりネグレクト(育児放棄)を受けていたりと、子どもの頃の家庭環境が恵まれていなかった結果、早くから働かざるを得なかったことでした。私には、大学に入学するという選択肢が当たり前のようにありましたが、彼らには大学以前に高校にすら進学することも許されなかった。そのため、大人になってもしっかりとしたしごとにつくことが難しく、貧困から抜け出せずにいました。彼らが貧困に陥ったのは、決して怠けていたからではなかったのです。実際彼らは日雇いなど、低賃金で不安定なしごとではありましたが、懸命にはたらいていました」

食品の援助を受けた人たちからの、感謝のメッセージ。

これまで何ひとつ不自由なく育ち、それがふつうだと思っていた米山さんは、日本社会の陰の部分を見た気分になりました。
「ショックでしたね。それまでは『はたらかざる者食うべからず』なんて思っていたのに、はたらいていない私は食べることに困っていないのに、懸命にはたらく彼らのほうが困窮している。私と彼らを分けていたのは、環境に恵まれていたか、そうでないかの違いだけでした」

その後も活動を通じ、子どもの貧困を目の当たりにした米山さん。教育上の不利を被るだけでなく、経験の乏しさがコンプレックスや自己肯定感の低さにつながり、それが生涯にわたりネックになるなど、貧困問題の根深さを知ることになります。

「それは同時に、フードバンク活動の意義に気づいた瞬間でした。わたしたちが届けられるのは、わずかな食べ物に過ぎません。しかし彼らはそれらでお腹を満たし、浮いた食費で文房具を買うなど、少しだけでも“ふつうの暮らし”に近づけるわけですから。これは自分の使命だと確信しましたね。モヤモヤしていた自分に、本気でやりたいことが見つかったのです」

それから数年が経ち、今では関係省庁や大手企業との調整や、イベントを企画運営しながらフードバンク団体の運営相談にのる毎日。目が回るほどの忙しさです。

“ビジネススキル”が非営利事業を支える

ところで日々全力で活動に取り組む米山さんですが、2016年の春に拠点を山梨から東京に移しました。米山さんにとって、東京ではたらく意味とは。

地道な活動が実を結び、Jリーグとの連携も始まった。試合会場にテントを張り、フードドライブ(家庭で余っている食料を持ち寄り寄付すること)を実施。

山梨にいるままじゃ、本気じゃない気がした

米山さんは2015年に協議会を立ち上げる以前から、「必ず上京する!」と決めていたそう。

「事務局のしごとは、フードバンク活動の普及に向けて行政機関や企業との交渉がウェイトを占めます。中央省庁や大手企業の本社は東京に集中していますから、やはり近くに拠点を構えたほうがいいと思っていました。それに東京のほうが、NPO団体やプロボノ(職務上の知識や経験、スキルを社会貢献に生かすこと)の方と協力しながらいろんなアクションを起こしやすい。山梨でも、日帰り出張で東京に来ることはできます。ただフードバンク活動を普及させたいという思いはあるのに山梨にとどまるというのは、ちぐはぐな感じがしたのです。本当にそう思うなら、東京に行かなくてはいけないと思いました」

シェアオフィスでのひとこま。できあがったばかりのパンフレットを、スタッフと確認。

シェアオフィスでしごとの広がりを感じる

米山さんは初めての東京生活の場として、東小金井を選びました。

「上京するとはいえ、都心に住むイメージが沸かなくて。ところが東京でのしごとの帰り、山梨に向かう電車から窓の外を眺めていた時に『あ、ここなら住める』と感じたのが東小金井でした。高い建物がなく視界が開けていて、程よく自然も残っている。地元の景色と似ていて、ホッとしました。気がつけば電車を降りて、駅前の不動産屋さんに足を運んでいました。」

東京に来た当初は、ひとり自宅でしごとをこなしていましたが、数か月後にはすぐ近くのワークスペースと契約を結びます。現在はもうひとりの事務局スタッフと、肩を並べる毎日です。シェアオフィスの利用は初めてでしたが、メリットも多いと米山さんは感じています。

「ひとつは打ち合わせ場所の確保ですね。取引先との相談も多いので、落ち着いて話せる場所があるのはすごく助かります。それから、いろんなおしごとをされている方と出会えること。先日、協議会のパンフレットを新しくつくったのですが、そのデザインを入居者の方にお願いしました。すぐ近くにいらっしゃるので相談しやすく、おかげで納得のいくものができあがりました。そしてはたらき方にメリハリが生まれました。契約しているシェアオフィスは開いている時間が決まっているので、その間できるだけしごとに集中しています。まあ、自宅に持ち帰ってしまうことも多いのですが(笑)。それでも24時間際限なくといったはたらき方ではなくなったので、一人でしごとをしていた時とは違いますね」

課題解決につながるのであれば、有益なものは取り入れていくべきだと米山さん。

困った人を助ける力になるビジネススキル

今では事務局としてデスクワークをこなす米山さんですが、過去に会社勤めをしていた経験はありません。ビジネススキルは外部研修を受けたり、トライ&エラーを繰り返したりしながら身につけてきました。米山さんは、非営利団体こそビジネススキルを活かすことが重要だといいます。

「フードバンク団体もそうですが、NPOではたらく人の中には“ビジネススキル”と聞いただけでお金儲けなど、負の印象を抱く人が少なくありません。しかしスキルを営利の場で使っているからそう見えるだけで、スキル自体は成果を出すための最も合理的な手法だと思います。資金調達や組織運営など、私たちのような非営利活動を支える重要な要素となるはずです。スキルにより、少ない労力でより大きな成果を得られるのなら、それは貧困に苦しむ多くの人を救うことになる。実際に企業に勤めるプロボノの方と一緒にしごとをすると、参考になることがたくさんありますから。だからマネジメントやマーケティング、セールススキルも含めて、ビジネススキルはNPOでも積極的に取り入れるべきだと感じます」

研修会のようす。日ごろの活動に役立つスキルに、興味津々の参加者たち。

ビジネススキルの提供は、多くのフードバンク団体が抱える運営上の悩みも解消につながるかもしれない。協議会で広報や会議運営の研修を企画するのも、そうした思いから生まれていると、米山さんは話します。

協議会発足から丸2年が経ち、ますます活動の幅が広がりつつありますが、フードバンクの普及には、協議会そのものの安定化が必須だといいます。

「フードバンクが発展している海外の事例から予想すると、今後日本国内にも200、300のフードバンク団体ができてもおかしくないはず。より多くのフードバンク団体をサポートするには、まず私たち自身が強い組織となるための基盤整備が必要だと考えています」

ゆくゆくはフードバンク先進国のアメリカやヨーロッパと肩を並べ、日本人にとってフードバンクが当たり前の光景となればと、米山さん。
その思いが、多くの子どもたちを明るい未来へとつなげていきます。(たなべ)




全国フードバンク推進協議会 事務局長
米山広明
1983年山梨県生まれ。愛媛大学卒業後、地元の山梨に帰郷。2008年のフードバンク山梨設立時よりフードバンク活動に携わる。フードバンク活動全般、組織基盤強化事業、困窮世帯への生活相談、農作業を通じた自立支援等、新規事業の立ち上げや、自治体への事業提案を担当。2015年より現職、新設フードバンク団体の立ち上げ支援や政策提言活動を行っている。

http://www.fb-kyougikai.net/

本記事は、そばで はたらく” をテーマにこれからのはたらき方を考える「ウェブメディア リンジン」で2017年12月11日に公開したものです。

http://rinzine.com/

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