郊外のしごと

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Interview
vol.3

“イラストリーム”で記録をもっと楽しく

“イラストリーム”で記録をもっと楽しく

歌工房

歌さん

イラストリームの前身となる武蔵野美術大学の卒業制作“絵本のような授業ガイドブック「コミュデの歩き方」”

教室で生まれたイラストリームの原型

文字だけの議事録ではなく、もっと気楽にイベントを振り返る記録があってもいいのではないか。歌さんはそんな考えから、“イラストリーム”を描かれています。参加者がもらしたつぶやきから会場のレイアウトまで、細かな部分が拾われているかと思えば、キーワードとなる言葉が特大のイラストで強調されていたりと、イベントの内容を感覚的に振り返ることができます。参加していない人も当日の雰囲気まで感じられる、まさに“ライブ感”のあふれる議事録なのです。
今では、コンセプトも描き方も確立されているイラストリームですが、その原点は大学時代の教室にあります。「板書に模造紙を使い始めたんです。見返せるし、アイデア出しも書いちゃえばいいやって思って」。“模造紙ノート”と呼んでいたこの板書の取り方が、現在のイラストリームのはじまりなのです。

「学生のときから、ちょこちょこと知人づてでしごとの依頼はもらっていたのですが、卒業していきなり1人では無理なので、ひたすらダブルワークですね」と歌さん。

しごとをはじめる第一歩

大学を卒業後はデザインのしごとを週3、4日だけ行い、自由な時間を使って色々な講演会やイベントに自費で参加し、勝手にその様子を描いていたという歌さん。「大学時代は、描いたものを面白い面白いって言ってもらってたんですけど、結局は大学って閉ざされたハコだから、それがお金を稼ぐしごとにまでなるのかわからなかったんです」。その疑問をクリアにするため、全く知らない人の集まる場所で、実際に描いて見てもらうというプロセスをひたすら積み重ねていきました。
例えば、ソーシャルデザイン等に関心を持つ人が集まるイベント『green drinks』に参加してイラストを描き、自己紹介をすると、少ないながらも繋がった人が紹介してくれたり、ツイッターを見た人から「1回やってもらいたい」と連絡がくることもあったそう。進め方や伝え方がわからない間にも、何度でも試し、相手の声を聞くという行動力が、自分1人からはじめた活動をしごとにしていくための出発点でした。

一言で伝えるということ

ひたすらに参加を続けたイベントでは、人との繋がりだけでなく、しごとの肩書きも見つかったのだそう。とあるイベントの後、描き上げたイラストを懇親会で見せると、返ってきたのは思わぬリアクションでした。「『それイラストリームじゃん!』と言ってきたんです。ちょうどUstream(動画共有サービス)が盛り上がってた頃だったんですよね。“模造紙ノート”よりわかりやすいし、面白い肩書きだなって思ったので、『それいただきます』って答えて(笑)」。社会人になって2年目、ひょんなきっかけで生まれた肩書きから“イラストリーマー歌”という名刺を作られました。
さらに、肩書きが固まった後にもう1つ、しごとを進めていくにあたっての懸案事項は値段設定でした。長らく曖昧な状態で、イベントに参加した数十人からおひねりのように少しずつもらう方法が続いていたのだそう。「デザイナーとしては珍しいんですけど、名刺に値段を書いちゃいました。最初は偶然、月3万円ビジネスって本が目に留まって、じゃあ…3万円かなって感じで(笑)」。基本2時間3万円+交通費と値段設定をわかりやすくすることで、初対面の間柄でも、一気に話しやすくなったのだといいます。
一般には馴染みのないしごとであるため尚更、何をしているのか一言で伝わる、どう頼めばいいか一目でわかるという明解さで、価値を認めてもらい収入を得るという形に結びつけていかれたのです。

机のないイベント会場でも役立つバインダーは欠かせない道具の1つ。紙をセットしたら、まずは必ず日付とタイトルを描くのだそう。

思い切らない働き方

現在の歌さんは、ご自身の生活拠点でもある多摩地域で様々な活動に参加されています。例えば、街をキャンパスに見立てた公開講座を行う『東京にしがわ大学』の授業や、国立のコミュニティスペース『つくし文具店』の店番、そしてKO-TOのシェアオフィス利用もその1つです。「ここ3年くらいですかね、多摩でもイベントが増えているなあと感じます。肌感覚で、盛り上がりが郊外に来てると思います」。
そうした郊外の活動で繋がりを広げながら、週2日ほどは、都心にある会社でグラフィックデザインなどのしごとをされている歌さん。「自宅で作業してもクライアントは都心のことが多かったり、生活できる収入は都心の方が早く得られるんです」。都心と郊外のどちらかに拠点や収入源を絞るのではなく、生活とのバランスを取りながら進めていくスタイルこそ、歌さんが選ぶ働き方なのです。そして、そんな思い切らない働き方は、都心がすぐそばにある郊外だからこそできる形なのかもしれません。

歌工房歌工房

歌さん

講演会・トークイベント、ディスカッションの内容をその場でイラストと文字で記録する「イラストリーム」と言う活動をしています。単純に記録としてのご依頼と共に、それを素材として、紙媒体・WEBページへの編集、デザインも行っています。相談によっては、ぬいぐるみなど立体物作成なども。とにかくモノづくりなら何でも、全てのヒトのモノづくりをお手伝いがしたい、と活動中。
http:///www.utakobo.com

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