郊外のしごと
地域を知り、介護者を支える応援団
NPO法人UPTREE
阿久津 美栄子さん
“四重苦”の介護経験がきっかけ
「要介護者については手厚くても、介護者には何一つないんですよ。おつかれ、で終わるんです。あまりにも居場所がなくて、話しをするところがないんですよね」。2005年、比較的若い年齢で介護がはじまることとなった代表理事の阿久津さん。子育てをしながら、実家の長野と自身の転勤先である大阪を片道7時間かけて行き来する遠距離介護、加えて両親同時介護という「四重苦」だったと言います。「子どもを見てもらえるところもなくて、連れて帰るしかなくて。日々堂々巡りでした。色々なことが次々と起こって、それに対応して…」。
介護を受ける側を支えるサービスや制度は年々充実していく一方、介護を行う側をケアするものが少ない。そんな実感からスタートしたNPO法人UPTREEが現在行う活動は、大きくわけて2つあります。介護を始める前の人に対して、これからどんなことが始まるか知ってもらう「介護者予備校」。そして、出張個別デイサービス・付き添い・見守り・買い物代行など、数字と時間で制限されてしまう介護保険外のことをカバーする「助け合い事業」。活動にあたるメンバーは、ほとんどが地域の主婦。そのため、例えば助け合い事業も午前中のみに限定しているそう。「出来る範囲でムリなく、ということを意識してるんです。終わらせたくないし、終わらせないことが重要だと思うから」。それぞれのくらしを過ごしながらはたらくことが、活動を持続可能なものにしています。
必要とされていながら、地域にないものを作る
阿久津さん自身が介護を行っていた時、一番欲しかったのは居場所だったと言います。「専門の施設に行っても、事務的に終わっちゃうんですね。『実は自分はこうなんです…』って話し出せるところがない。で、ないなら作ろう、と」。そんな考えを持ってしごとを探していた時、東京でNPO法人介護者サポートネットワークセンターアラジンと出会います。「自分のやりたかったことを10年も前からしてたんだ!と思って、スタッフとして加わりました」。翌年には、阿佐ヶ谷に全国初となる“ケアラーズカフェ”をオープン。その取り組みがひと段落したところで、「地元で自分で、一から立ち上げたい」と考えられ始めたと言います。「元々、独立して働きたいな、というのはあって、悶々としていたところに、ストンと入ってきたんですよね。介護でしょう!と」。まずは5人程が集まる勉強会を始め、そこに家族会で出会ったメンバーも加わり、NPO法人UPTREEを立ち上げるに至ります。
介護者の居場所“ケアラーズカフェ”
現在、NPO法人UPTREEが目標としているのは、小金井に“ケアラーズカフェ”を常設すること。「本来は支援センターや行政がしなければならないところも、介護者がないがしろになってしまう実情があるんです。会合が開かれていても、行けない人もいるんですよ」。“ケアラーズカフェ”は、介護者が集まり、会話を交わしたり情報交換を行う場所。「介護者が介護者の都合で来れる居場所」です。
「うちは介護者の応援団なので」と阿久津さんは言います。介護が始まって浮かぶ疑問も、求めている情報も、どこに行けば解決するのかわからないうえ、年代によってはネットで調べられない。そんな時にふらっと行けるような居場所、ひとつの窓口になる場所があればというニーズに応えるのが“ケアラーズカフェ”なのです。
“地域限定小金井版”だから実現できる活動
「阿佐ヶ谷にケアラーズカフェ作る活動をしていた頃にわかったのは、結局は地域性だなあということなんです」と阿久津さん。「スタッフとの打ち合わせでも、あそこにあるカフェが…とか、あそこにあの先生いたよね、というと、場所も人もピンとくるんですよね」。
現在、NPO法人UPTREEが拠点を置くのは小金井。ひとつのまちで活動していく中で、住民の声の大きさを感じられるそう。「誰かが動いてくれるのを待つんじゃなくて、自分たちから働きかけていけば、行政も他の市民も動いてくれるんですよね。小金井にはNPOも多いし、地域で支え合う仕組みが必要だと感じるんです」。小金井を1つのモデルケースとし、そこから波及して全国にケアラーズカフェができることが最終的な目標。地域を知り、手の届く範囲で活動を行っていくことが、介護者のサポートというしごとの基盤となっています。