郊外のしごと

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Interview
vol.24

コウカシタスクール前夜 #3

コウカシタスクール前夜 #3

岩崎由布子

手がけるジュエリーは石や素材を選べるセミオーダー制で、「自分のために宝石問屋で高品質のジュエリーを選んでくれるんだ」という満足感を持ってもらえる本格志向のお客さんが多いそう。

きっかけは引っ越し

数年前に小金井に引っ越してきた岩崎さん。その当時一番の関心を持っていた“起業”でネット検索をしたところから、創業支援施設であるKO-TO(コート)のホームページにたどり着きました。

「最初は『面白そうなイベントとかやってるんだな』って思っただけだったんですけど、しばらくして見たら、秋にスクールやるって書いてあって『あ、じゃあ行こう』ってそんな感じでした。しばらく住んでいるにも関わらず地域の知り合いがいなかったので、“起業”っていう共通の興味を持っている人達と出会えたら楽しそうだなって思ったんです」当時の思い出を振り返ると、お昼に皆でランチに行ったのが楽しかったなあと真っ先に笑う岩崎さんですが、スクールが始まってみると思いがけない展開も待っていました。「参加者同士で話す場面が多いプログラムだったので、周りの皆に触発されて、私の負けず嫌いが出たんです。『この次来るときには、ここまでやれたって皆に言えるようにしよう』っていう風に刺激を受けて、結局はスクールとしてもすごくよかったです。始まりは、『飲み友達できたらいいな』でしたけど(笑)」

リングのデザインが出来上がると、職人が3Dプリンターで樹脂原型を出力し、さらに10金・18金といった金属を流し込むためのゴム型が作られる。

夢を広げて現実に落とし込む

かねてから日本の職人へのリスペクト心を持っていた岩崎さん。スクール初日に書いたプランは、「全国を巡りその土地の職人たちと会って、土地の素材で商品を作る」というもの。その内容は、最初の講義で大幅に変更することになったと言います。「最初は背伸びしてるから、自分も同期もビッグマウス(笑)スクールに来て喋ってると、気持ちが高揚するせいか、何でもできちゃうような気分になるんです。『この人がこんなこと言ってるんだったら私だって!』とか、どんどん夢が広がって。でも、大風呂敷広げっぱなしじゃなくて、講師の方々が現実的なことをポンッとフィードバックして下さるから、悔しいけどおっしゃる通り…と地に足もついていく。同期のメンバーと会って、先生の話聞いて、宿題も出されて、次来る時までは自分のできることやろうと思えるプロセスは、とても大切だったと思います」

岩崎さんが制作するのは、どれも長く愛用できる本格派の作品。

中でもその後にまで続く転機となったのは、“とにかく何かひとつやってみる”という宿題。スクールの最終回直前、勢いのまま自身の屋号U PLANETを冠したホームページを作り、ECショップのアカウントも取得しました。現在メインで注文を受けているのは、その時に開設したECサイト。ジュエリーの売り上げは、前年の2倍にまで伸びてきているそう。「当時作ったサイトからの受注なので、ある意味、今も宿題の続きをやってますね(笑)同期との繋がりも続いていて、お店にバッグを置かせてもらったり、イベントの誘いがあって販売させてもらったこともあります。商品も、奥さんとお嬢さん用のジュエリーを頼んでくれたり、思い出のジュエリーのリフォームを依頼してもらったり…。今でも年に何回か声かけあって同窓会をしているのですが、『今度ね』って別れると、同時に『次会ったときは何の話題を持って行こうかな』って、またちょっとお互いに頑張れるっていうのがありますね」

少しずつ歩む独立への道

そもそも岩崎さんが物作りを始めたのは、広告制作のしごとをしていたとき。ウェブのデザインに慣れて飽きを感じ、次はCMプランナーにと映像の学校へ通い始めると、会社でもすぐに実践させてもらえてある程度の満足を得る日々。けれど、その時フッと心によぎったのは、『結局は自分が作りたい物じゃなく、クライアントの好みに合わせた広告を作るんだよな。しかも数週間経てば広告は消えて無くなってしまう…』という冷めた思いでした。このまま転職を繰り返してもしごとの内容にはすぐに飽きる。それなら何をすれば自分の“魂”は満たされるんだろうと、手当たり次第、興味のあることに飛びついていったのだと言います。紆余曲折を経て辿り着いたのは、“すでにある商品を宣伝するよりも、まずは一から自分で商品を作ってみよう”という思いでした。周りを見渡すと、勤務先の周りは偶然にも問屋街。良質の素材を丁寧に加工すれば副業になりそうと思い立ち、今度は会社に勤めながらバッグやジュエリーの学校に行って学びました。今では、会社帰りや休日を使って素材を買い付けに行くことも多いそう。

「お店を持つと賃料はかかるし、店番もしなくてはいけない。同じ場所にじっとしていられない性分なので正直それは苦痛だけど、ネットで売る方法なら、会社勤めしながらできるなあって。会社の同僚にも家族にも、応援されてるってわけじゃないけど『何か作ってるんだなー』って感じで受け止められています(笑)」売り上げも伸び始め、いずれは独立して物作りに集中したいと考え始めているそうですが、「食べていけるようなタイミングが見えてきたら、2、3年内には」と決して焦って歩みを進めはしない岩崎さん。自分のペースでやりたいことや課題と向き合いながら進んで行くために、今も新しいチャレンジを思い描いています。「物作りのスタートはバッグだったんですが、今は一番の悩み。デザインと型紙作りからはじまり素材選び、ミシンで作るところまで、自分一人でやることが多すぎて時間がないんです。バッグも、お客様が牛革や裏地を選べるセミオーダーにしていきたい。デザインは自分で制作して、後を腕利きの日本の職人さんに任せていく構想を膨らませながらタイミングを見計らっています」

一方、軌道に乗ってきたジュエリーでは、商品を手にしたほとんどの方から喜びのメッセージが届いているそう。お客様の大半は女性。高品質の天然石ジュエリーに対し、スピリチュアルな価値を持つお客様が多いことを感じた岩崎さんは、そこにもある構想を持っています。「私や商品にスピリチュアルなものを期待されているので、それに応えられるように本格的に勉強でもしようかと考えています(笑)冗談っぽいですけど、上手く繋げられたら面白い展開になるよなあと思っていて…。そう言いながら、半年後にはまた違うことを考えてるかもしれないですけど(笑)」会社勤めや生活とのバランスを見ながら、自分のペースで、興味が惹かれるままに進んで行く道のりは、1人でやるからこそ叶えられる自由さのひとつ。岩崎さんのように、副業としてゆるやかに進めていく方法も、もっと小さく、週末やイベント単位でだけやってみるという方法もあります。自分が思い描くはたらき方やアイデアを実現するカタチは十人十色。「地域に知り合いを作ろう」というくらいの気持ちで、まずは一歩踏み出してみませんか。




岩崎由布子
小金井市在住のコウカシタスクール三期生。“良い素材で、良い物を”をコンセプトにU PLANETを立ち上げ、ジュエリーやバッグの製作・販売を行う。流行に左右されず、長く愛用してもらえる商品がテーマ。
http://uplanet.jp

本記事は、Enjoy neighborhood!「ウェブメディア リンジン」で2018年9月27日に公開したものです。

https://rinzine.com/

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