郊外のしごと
等身大で踏み出した21歳の店主
門間陽奈里
優しい気持ちになれる、かわいいメニュー
「やってみて楽しいです。お客さんが皆さん優しくて。東小金井って、穏やかな雰囲気ですよね。オープン前は、タピオカ屋なので女子高生が来てくれるかなと思っていたのですが、実際は、お子さん連れのママさんが多かったです。私、子どもが好きで、ベビーシッターのバイトをしたこともあるくらいなので、うれしくて」
nomnomは、生タピオカドリンクやサンドイッチ、フルーツビネガードリンクなどのテイクアウト専門店。豊富なメニューはどれもカラフルです。
「見た目がかわいいものを作りたかったんです。食べていて、気持ちが上がるような」
門間さんが言う通り、タピオカドリンクはかわいくて華やかで、出してくれた途端に「うわぁ」と声を上げてしまいました。サンドイッチは、小金井公園でのピクニックにもぴったりです。
門間さんにとって、「気持ちが上がる」ものが、もう一つ。韓国のカフェです。
「韓国のカフェがすごく好きで、コロナが流行る前は、何度も行っていて。カフェ自体も、フードやドリンクも本当にかわいくて、ケーキを一つ食べるだけで、もう、幸せですよね(笑)そんなふうに、人の気持ちを優しくできるものを作れたらなって思っています」
コロナを機にタピオカ屋でアルバイト
門間さんがお店を出そうと考えるようになったのは、最近のことです。門間さんはもともと、映像関係の広告代理店ではたらいていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、リモートワークに。泊まり込みの撮影さえあったほどの忙しさから、急に自分の時間ができました。そこで始めたのが、地元のタピオカ屋さんでのアルバイトでした。
「やってみたら、タピオカづくりが結構楽しくて。自分でもお店を出せないかなって思ったんです」
そんなときに、門間さんのお母さんが見つけてきたのが、MA-TOでした。
「母は事務職なのですが、焼き鳥屋さんをやるのが夢で。趣味の物件探しをしていたら、ここを知ったみたいです。見てみたら、初期費用も家賃も安くて済むとわかったので、やってみようかな、と。ここが見つかっていなかったら、やっていなかったと思います」
タピオカ屋でのアルバイトを始めたのが4月。nomnomのオープンが8月。急転直下の展開です。始めてみて、大変だったことはありますか?
「この場所は思ったより知られていないみたいで。東小金井にずっと住んでいる友達も初めて知ったと言っていましたし…。オープンした頃はお客さんが少なくて、宣伝を自分で頑張らないといけないなと。インスタを頑張ったり、Uber Eatsや出前館に登録したりして、そのうちにだんだん増えてきました」
今は目標に近い数のお客さんが来店しています。もう一つ大変なのが、お客さんの数の予測だそうです。ゆでる、煮る、冷やす……と2時間もかかるタピオカの下準備。その日の来店数をうまく読んで準備しないと、品切れになったり、余ってしまったり。試行錯誤を続けています。
お客さんのありがたみがバイト時代とは違う
では、良かったことは何でしょうか?
「お客さんが本当に優しいんです。前の広告代理店のしごとも、大きな案件に携われたりして楽しかったのですが、忙しすぎて心が荒むし、嫌なこともやっぱりあったんですよね。でも今は、嫌な気持ちになることはなくて、私も優しい気持ちでお客さんとお話しできています。人生の目標なんて言ったら言いすぎかもしれないですけど、『人に優しくすること』は私にとって大切で。私も優しくされたいですしね(笑)そういう意味では、すごく今いいなって思っています」
nomnomのお客さんはリピーターさんが多いそうです。
「今まで来てくれたお客さんは全員覚えています! 本当にありがたくて。心から『ありがとうございます!』と思っています。正直、時給制のバイトではたらいていたときは、そんなふうに思わなかったんですよね。お客さんが少なければ、それもよし、みたいな。でも今は、お金の重みが全然違います。広告のしごとをしていたときのほうが収入的には良かったですけど、今のほうが何倍も重い。お客さんが支えてくれたお金なので、ありがたくてしかたないです。大事に使おうと思うようになりました」
「自分で何かやりたい」気持ちを持ち続けて
nomnomのオープンは、門間さんにとって、友人や家族のありがたさを見直す機会にもなりました。
「友達がたくさん来てくれて。あまり自分から友だちを遊びに誘うようなタイプではなかったから、友達が多いとは思っていなかったんです。それが、オープンしてから店に100人くらい来てくれて。泣きそうになりました。友達にも家族にも支えられているって、すごく感じます」
もともとは、映像制作を学ぶ大学に通っていた門間さん。ニューヨークに行きたいと、大学を中退しました。帰国後、映像を手掛ける広告代理店に勤め、そしてnomnomを開店。「普通の道を進むより、やりたいことをやりたい」「自分の手で何かを作り上げたい」という思いを一貫して持ち続けてきました。
「大学を辞めたり、いろいろしてきて、母も途中から諦めがついたのかな。物件を見つけてくれたように、今は応援してくれています。土日になると店を手伝いに来てくれるんです。来なくていいよ、と言っても、『私の楽しみを奪わないでよ!』って言われちゃう(笑)」
母子家庭の門間さん親子。家計を支えてきたお母さんの「焼き鳥屋を開く」という夢を、門間さんも応援するつもりです。「店の利益をためて、お母さんの出店費用に使ってもらうのが私の夢」と話してくれました。
「私も、やればできるんだな」
最後に、これからやってみたいことを伺ってみました。
「作品の展示にチャレンジしたいです。誰もが経験する恋人や友達、家族との別れをテーマに、忘れたくない思い出の品とその人の言葉を展示する、“別れ展”を企画したくて。恋人からの贈り物や、青春の一枚の写真、親が送ってくれた手紙など、いろんな人の、いろんな人生の大切な瞬間を、ひとつの場所に作品として集めてみたいと思っています」
2年前に構想したものの、なかなか形にできず、今年こそはと思っているそうです。
「それから、今後やってみたいのは、やっぱり、韓国カフェです。今はテイクアウトだけなので、店内でゆっくりしていただけるようなカフェを作ってみたいですね。あと、私、タイ料理も好きなんです。大好きなお店があるので修行させてもらって、タイ料理屋をするのも楽しそう。やりたいことがたくさんあって。週の半分は店、週の半分は他のしごとというスタイルもおもしろいかも。子ども好きなのでベビーシッターや、母子家庭で育ったのでシングルマザーを手伝えるしごとと、店を組み合わせて、半々ではたらくとか」
これからも、自由な発想で、門間さんらしいはたらき方を作っていくような予感がします。
「実は今までも、『映像の会社を作りたい』とか、いろんなことを思っていたんです。でも、実現できなかった。今回、店をオープンできて『私も、やればできるんだな』って、思えるようになりました」
nomnomの開店は、門間さんにとって、これまでと違う一歩でした。MA-TOにお店を出して、ちょっと自信をつけた門間さん。次の一歩が楽しみです。(近藤)
門間 陽奈里
映像関係の広告代理店、カフェやタピオカ屋でのアルバイトを経て、2020年8月、nomnomを開店。大好きな韓国カフェの雰囲気の店で、見た目にこだわったかわいいドリンクやフードを提供している。