郊外のしごと
庭の植物を生かす、新しい福祉施設
鞍田愛希子
誰にも開かれた、「香る庭」をつくりたい
「現代社会では、孤独なまま不安を抱えている人や、誰かの役に立ちたくても何をすべきか分からない人が多くいます。そんな人たちが繋がれる“家と庭”をつくりたかったんです」と話す、鞍田さん。
そんな鞍田さんの原動力となっていたのは、 精神的な不安を抱える人たちが身近に増えていったこと。心と体に優しい植物の香りや色・触感などを取り入れ、人と人が自然とケアし合えるような場所をつくれないかと長年考えてきました。
そして昨年5月に、HERE主催の「まちのインキュべーションゼミ#2 これからの、家と庭」 に参加します。仲間と議論やフィールドワークを重ねる中で、少しずつアイデアが形に。最終的には、植物の育つ庭を拠点に、障害者やその家族、地域の人が関わり、相互ケアや就労支援をめざす事業へと具現化されていきました。
理想の物件と出会い、ムジナの庭を拠点に
鞍田さんが事業の拠点として理想的な広い庭付きの物件に出会ったのが6月のこと。それは偶然にも、世界的な建築家・伊東豊雄氏が設計した物件でした。改修設計は、伊東氏と縁が深い建築家ユニット「o+h」に依頼することに。
「伊東さんとo+hさんが設計した“東松島こどものみんなの家”は、仮設住宅地でみんなが共有できるリビングとして地域に開かれました。家を街と捉えるコンセプトが自分のめざす施設とリンクしていたんです」
そして新たな拠点は、“ムジナ(アナグマ)の庭”と名付けられました。
繋がりが必要な人の、新しい福祉施設へ
10月には、ゼミの仲間とプレオープンイべント“ムジナの庭とサーカス”を開催。植樹祭や、植物を使ったアロマカウンセリングや蒸留体験などのワークショップ、トークカフェなどが催され、様々な人がフラットにコミュニケーションしながら楽しむ姿がありました。
「コロナ禍でみんなが心細さを感じる中で、繋がりが必要な人たちの“家と庭”になるように、今後も活動を広げたい」 と言う、鞍田さん。改修工事も終わり、今年3月には“ムジナの庭”がオープン。病院でも従来型の障害者施設でもない、 地域に開かれた新しい福祉施設の誕生に期待が高まります。
ムジナの庭ができるまで
ゼミ#2に参加
起業に向けて、HERE主催のまちのインキュベーションゼミ#2「これからの、家と庭」に参加。仲間と一緒にアイデアを出し合い、計画づくりをスタート。
不動産相談・内覧
小金井市内の気になる物件を見つけて不動産相談。実際に現地内覧に行き、「ここで事業をしたい」と思いが高まる。
物件申し込み
他にも物件を見るが、どうしてもこの物件が気になり、入居の意思表示をする。同時並行で、融資についても検討を進める。
引き渡し
賃貸借契約を締結し、物件の引き渡し。建築家と共に、リノベーションに向けた設計をはじめる。
プレイベント
ゼミの仲間と一緒にイベント「ムジナの庭とサーカス」を開催。また、nonowa国立でのマルシェに出店する。
改修工事
福祉施設にするための改修工事をスタート。東京都の創業サポート事業を通じて、多摩信用金庫からの事業融資を受け、準備が加速する。
ムジナの庭オープン!
改修工事が完了し、いよいよ施設オープン。鞍田さんのチャレンジはまだまだ続く。
鞍田愛希子
アンフルラージュをきっかけに、植物と哲学の実験工房「Atelier Michaux」をスタート。福祉施設などで働きながら、植物をテーマにしたワークショップを多数手がける。2020年9月に「一般社団法人 Atelier Michaux」へと法人化。