郊外のしごと
”ちょうどいい”東小金井で書く
脚本家
岸本 卓さん
“ひたすら書く”脚本家のしごととは
岸本さんが主に手掛けられているのは、脚本を書くというしごと。セリフだけではなく、登場人物の表情、場の背景などを文字に書き起こすことから作業が始まります。「漫画だったら絵がありますけど、小説が原作だとそれがないですよね。例えば“信心深い”っていう人物を表現するために、神社で拝んでいるシーンを入れたりして、原作の内容を映像として伝えるんです」。原作者の意向を汲みつつ、オリジナルのシーンやセリフを盛り込みつつ、ひとつの脚本を作っていきます。
「朝8時すぎからお昼まではファミレスで作業して、午後からKO-TOに来てひたすら書いてます。午後7時くらいから打ち合わせに出て、またKO-TOに戻って作業することもあります」。時に資料を広げながら、1日おおよそ10時間、パソコンに向かって書き続けるのだといいます。
脚本は現場の声を聞きながら
現在フリーで活動されている岸本さん。しごとは、監督やプロデューサーから直接依頼が来ることもあれば、人づてに紹介されることもあるのだそう。そのため、人とのつながりがとても重要。脚本を書くときには、常に現場の声を聞くことを意識し、監督をはじめプロデューサー、原作の担当編集者としっかり話し合ってつくり込んでいくそうです。
「作品ごとに週1回行われる打ち合わせのときも、ここあんまり納得できてないんですとか、いいアイデアないですかねって、自分から積極的に聞くようにしてるんです」と岸本さん。以前は制作会社にデスクを持ち、監督のすぐ隣で脚本を書かれていたこともあったのだそう。「僕みたいな脚本家はなかなかいないから、重宝がられてましたね」。今でも、監督の意向を最大限、脚本に生かすというスタイルを守られているのだといいます。
「脚本までと割り切るんじゃなくて、最終的に面白い作品になるのが一番嬉しいんです」と、脚本を書き終えた後の次の工程である絵コンテの段階でも監督からいろいろ相談してもらえる脚本家を目指しているという岸本さん。「建設的なチームを作れるかどうかが勝負」という作品づくりへの姿勢が、信頼と作品の人気を生む背景となっているようです。
“近さ”と集中できる環境
岸本さんがオフィスを構えられているKO-TOがあるのは、東京の郊外に位置する東小金井。多忙な脚本家というしごとをされている岸本さんにとって、どのような魅力が感じられる場所なのでしょうか。
「毎日のように人に会うしごとだから、電車に乗っても移動が30分以内っていうのがいいんですよね。混み合った電車での移動ってしんどいじゃないですか」と率直な思いをこぼされる岸本さん。夜から始まることがほとんどという打ち合わせは、アニメーション制作会社が多い三鷹や阿佐ヶ谷、中野などといった中央線沿線で行われます。貴重な時間の中で楽に移動できる立地が大きなポイントとなっているそうです。
そして同時に、集中力を要する脚本家というしごとならではのポイントも。「そもそも繁華街が苦手なので、小金井くらい落ち着いた場所が一番集中力が長続きするんです。KO-TOの前は高い建物もないし車もあんまり通らないので、窓からボーッと外を見てるだけで気分が晴れます」。何時間も机に向かって作業をされた後、自転車で帰る道にも魅力があるそう。「まず近くの行きつけのお店で深夜0時から一杯のんで、広大な野川公園をつっきって帰るんです。空がものすごく広くてびっくりする程の解放感ですよ。お酒も入ってるし(笑)」。
「だからここ、ほんとに何から何までちょうどいいんですよね」と岸本さん。人に会うための移動のしやすさと、集中できる静かな環境。東小金井は、岸本さんがしごとをされる上で重要なポイントの両方が揃った場所なのです。
“仲間と一緒にひとつものをつくりあげていきたい”
監督やプロデューサーなどと異なり、脚本家は個人で作業をするケースが主流なのだそう。「でも僕は1人で全部書き上げて、完成!っていうタイプじゃないんです。結局書くのは僕自身ですが、それを仲間と壊したり直したりしながら鍛え上げていく作業が好きなんです。あんまり壊されると凹みますが(笑)」。
そう話す岸本さんは、今後、チームで脚本をつくることにも挑戦していこうと考えられています。「仲間で何かやるのが好きなんです。部活みたいにひとつのものをつくりあげて、できた!っていうのが楽しくて」。
プロフェッショナルな仲間とともに、ひとつの脚本をつくりあげる。岸本さんはそんなしごとの展開を思い描かれています。